痛みがある時は冷やしたほうがいいの?温めたほうがいいの?
アイシングってどのくらいやったらいいの?
腰を冷やしたらダメなの?
痛みがある時、冷やすべきか温めるべきか迷いますよね。
タカスポでも患者さんから非常に多く聞かれる質問です。
結論から言うと、どちらが良いかは、痛みやケガの種類、状態によって異なります。
今回は【冷却療法(アイシング)と温熱療法】についてのお話です。
冷却療法(アイシング)と温熱療法の違いを知ろう
痛みを伴う症状に対するセルフケアとして、冷却・温熱療法は効果的です。効果や目的をしっかりと理解し、適切に選択することで治療効果を上げ、正しく対処できるようにしていきましょう。
温熱療法についてはこちら
冷却療法(アイシング)
冷却療法は、主に急性期の炎症を伴う痛みに対して有効です。その効果のメカニズムや目的について説明します。
冷却療法(アイシング)のメカニズム
【血管収縮】 冷却することで末梢血管が収縮し、血流量が減少します。これにより、損傷部位への血液供給が抑制され、浮腫や出血の程度が軽減されます。 |
【炎症抑制(代謝の低下)】 末梢血管が収縮し、血流量が減少することで組織の代謝活動が低下し、炎症メディエーター(発痛物質や酵素)の産生を抑制し、炎症反応の拡大を防ぎます。 |
【神経伝導速度の低下】 冷却部位に分布する感覚受容器の閾値が上昇し、神経伝導速度を低下させ、痛みの信号伝達が抑制されます。これにより、痛みの知覚が鈍麻し、鎮痛効果が得られます。 |
【筋緊張の緩和】 冷却療法は、筋緊張を調整する筋錘と呼ばれる器官の活動を低下させ、筋緊張を緩和する効果があります。また、適切に行うことで筋スパズム(筋けいれん)を軽減することもできます。 |
【組織粘性の増加】 冷却療法を行うと皮膚、筋、靱帯、関節包など結合組織を多く含む組織の粘性が増加し、硬くなり、関節運動の抵抗が増加し、運動スピードは低下します。運動前にアイシングを行うことが推奨されないのはそのためです。 |
冷却療法(アイシング)の目的
【外傷後の応急処置】
日常生活やスポーツ中の捻挫や打撲、肉離れなど外傷(ケガ)が生じた時、いかに炎症を抑えるかが重要なポイントです。外傷後の組織に炎症が起こるのは正常な生体反応ですが、炎症を放置しておくと、炎症はさらに拡大し、その後に要する治癒期間が長期化します。その対策として最も有効とされるのが冷却療法(アイシング)の生理学的作用です。
冷却療法(ice)に加え、患部を安静 (rest)にし、圧迫(compression)を加え、心臓よりも高い位置に挙上(elevation)するとより効果的です。それぞれの英語表記の頭文字をとり RICE処置と呼ばれ、外傷後の初期治療(応急処置)としてよく知られています。
加えて、冷却療法により感覚を鈍麻にさせ、痛みという苦痛から解放することも外傷後の適用目的の一つです。
アイシングで治るのが遅れる?
組織損傷後に起こる炎症は身体の中で起こる正常な回復の過程で、組織の再生にとって重要な反応です。すなわち、アイシングで炎症を抑制してしまうと再生を阻害してしまう可能性があります。
実際、筋損傷後にアイシングを施した実験では、「筋再生が遅れた」という報告と、「筋再生を阻害することはなかった」という報告が両方存在し、遠心性収縮による重い筋損傷の後にアイシングを施すと、炎症性マクロファージによる損傷筋の貪食が十分に行われず、それが原因で新しい筋細胞の形成が遅れる可能性が示されています。
炎症による腫脹や疼痛を抑えるためにアイシングは重要ですが、今回明らかになったメカニズムにより、重篤な筋損傷ではアイシングは行わない方が、早期回復が見込める可能性が見出され、重篤な筋損傷が起こった場合には、「回復を早めるために冷やさない」という選択肢もあることを知っておきましょう。
【リコンディショニングの方法】
特に激しい動きが要求されるスポーツ競技では、捻挫や打撲など明らかな外傷が生じていなくても、少なからず微細な組織損傷を生じている可能性があります。この微細な組織損傷は繰り返し起こるとスポーツ障害の原因となるため、クーリングダウンとしてアイシングは効果的で、特にスポーツ障害を起こしやすい成長期の選手にとってアイシングは必須といえます。
微細な組織損傷で起こる炎症を抑えるとともに痛みや筋スパズム(筋緊張)を緩和したり、アイシング後の二次的血管拡張によって、血液循環が改善され、組織に蓄積した老廃物が除去され、疲労の回復促進にも効果的です。
【リハビリテーションの補助】
早期回復を目指すリハビリテーションでは、回復過程のできるだけ早い段階から十分なストレッチや運動療法を行う必要がありますが、痛みや筋スパズムがその妨げになることが多く、リハビリテーションがスムーズに進まないことがあります。
そこで、冷却療法を併用し、痛みや炎症を抑え、筋スパズムを緩和することでリハビリテーションの効果を上げ、早期回復のサポートを行います。
冷却療法の実施における注意点
【冷却時間】
冷却時間は、一般的に1回15〜20分程度が推奨です。過度な冷却は凍傷のリスクを高めるだけでなく、生体反応が起きにくく治療効果が半減してしまいます。
【冷却温度】
冷却温度は、皮膚組織を損傷させない範囲で適切な温度に保つ必要があります。基本的には氷と少量の水を氷嚢やビニール袋に入れて行います。一般的にアイスパックや保冷剤は凍傷のリスクがあるため濡れたタオルを巻くことをお勧めしています。
【合併症への注意】
糖尿病、末梢血管疾患など、血行障害を伴う疾患を持つ患者に対しては、冷却療法の実施に際し、十分な注意が必要です。さらに妊娠中の女性は、冷却療法の実施に際し、医師に相談することが推奨されます。
自宅でもできるアイシング
【アイスパック】
アイスパックは氷を詰めたビニール袋や氷嚢で患部を冷却する方法です。中等度から広範囲の外傷、 痛み、 浮腫を治療するのに適していて、RICE処置として最もよく用いられる方法です。
【アイスマッサージ】
アイスマッサージは患部に氷を直接擦り付けてマッサージを行いながらアイシングする方法です。通常5〜10分で感覚がなくなるので、そこでレストしアイシングを繰り返し行う方法です。
【アイスバス】
アイスバスは氷と水を入れたバケツに患部全体を浸して行うアイシング方法です。患部全体を均一に深部まで冷却でき、足部や手指、凹凸のある関節部のアイシングに適しています。
アイシングは湿布で充分??
結論から言えばアイシング目的で冷湿布を用いることはあまり意味がありません。メントールの成分で一時的にひんやりと冷感を感じますが、冷却効果はあまりありません。アイシング目的であれば、氷嚢やアイスパックを用いることが効果的です。
冷湿布の主な作用は痛みや炎症を抑えることです。現在、市販されている湿布や病院などで処方されている湿布は、正式に言うと経皮吸収型鎮痛消炎剤を成分として配合した貼り薬です。患部に湿布を貼ることによって、鎮痛消炎成分が皮膚から患部へと吸収され、腫れや痛みを抑える作用が期待されています。
世界を見ると、実に95%は日本で消費され、厚生労働省からも処方枚数の制限が出るほど、日本で多くの患者さんが使用している外用薬です。欧米諸国では、湿布剤よりもクリームやゲル状の外用薬が一般的ですが、日本には、古くから漢方薬や温熱療法といった東洋医学が根付いており、湿布剤もその延長線上にあり接骨院でも手作りの湿布を貼布することがあります。日本では、多くの湿布剤が第一類医薬品または第二類医薬品として分類されており、ドラッグストアなどで手軽に入手できるため広く浸透していますが、ご自身の症状に合わせて、適切な湿布を選び、正しく使用することが大切です。