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2025.09.17(Wed)

成長期の痛みを知るvol3 (股関節のスポーツ障害)

患者さん
患者さん

サッカーのボールを蹴ると股関節やその周りが痛い
子供が歩く時にの足を引きずっている
身体が硬く股関節の可動域が悪い

タカスポ
タカスポ

サッカーやバレエ、陸上競技など股関節の障害は成長期に多いスポーツ障害です。
今回は成長期に起こりやすい【股関節・骨盤のスポーツ障害】についてまとめました。
理解を深めてお子さんの成長に役立ててください。

股関節や骨盤のスポーツでのケガは、全体の約5〜6%とそれほど頻繁には起こりません。しかし、体幹と下肢をつなぐ要となる部分なので、一度痛めてしまうと、スポーツ活動はもちろん、普段の生活にも大きな支障が出てしまうことがあります。

成長期の代表的な股関節・骨盤の障害

グローインペイン症候群(鼠径部痛症候群)
股関節の前方や内側(鼠径部、恥骨周辺)に痛みが生じる障害で、サッカー、バスケットボール、ラグビーなど、急な方向転換、キック、ダッシュ、ジャンプといった股関節に大きな負担がかかるスポーツをしている選手に多く見られます。股関節の前方や内側(鼠径部、恥骨周辺)に痛みが生じ、主に内転筋、腹筋群、腸腰筋などの過剰な負荷や炎症が原因とされ、筋力や柔軟性のアンバランス、間違った身体の使い方、姿勢やフォームの乱れも関係します。運動時に痛みが悪化し、休むと楽になる傾向がありますが、放置すると慢性化することもあります。
大腿骨頭すべり症
大腿骨頭(太ももの骨の先端部分)が、成長軟骨板のところで徐々にずれてしまう障害で、成長期後半(中高生、特に肥満気味の男子)に多く見られ、股関節から太もも、膝にかけての痛み、足を引きずるような歩き方(跛行)が見られます。症状は時間とともに悪化することが多く重症化すると大腿骨頭の壊死に至る可能性もあり早期の診断と治療が重要です。
ペルテス病(大腿骨頭壊死症)
大腿骨頭への血流が一時的に途絶え、骨が壊死してしまう病気で、4歳から10歳くらいの男児に多いとされていますが、中学生でも発症するケースもあります。股関節や膝の内側の痛み、歩行時の痛みや足を引きずるなどの症状が見られます。
単純性股関節炎
小児の股関節の痛みで最もよく見られる疾患の一つで、股関節に炎症が起こり、関節の中に液体が貯留する障害です。3歳から10歳くらいに多く、はっきりとした原因は不明ですが、風邪などの感染症の後に発症することもあります。比較的急に股関節、太もも、膝の痛みを訴え、歩きにくくなることがありますが、通常、1〜2週間の安静で自然に改善します。
【股関節インピンジメント症候群(FAI)】
股関節の骨の形状が異常で、股関節を深く曲げる動作などで大腿骨と骨盤が衝突し、痛みが生じる障害です。サッカーや野球、ダンスなど、股関節を大きく動かすスポーツで起こりやすく股関節の前面や深部に痛みが生じ、特定の動作で痛みが増強します。
【骨端線損傷・裂離骨折】
骨盤周りのスポーツ外傷、障害では比較的多く見られる骨折です。成長期の骨の端にある「骨端線(成長軟骨板)」は、通常の骨よりも強度が弱いため、スポーツによる繰り返しの負荷や強い牽引力によって損傷したり、筋肉が付着している部分の骨が剥がれたり(裂離骨折)することがあります。股関節周囲では、腸骨の突起(上前腸骨棘、下前腸骨棘など)や坐骨結節などの付着部で見られます。
【腸腰筋腱炎、内転筋腱炎、恥骨結合炎】
股関節周囲の筋肉や腱に炎症が生じるもので、過度な使用や繰り返しのストレスが原因となります。

身体的要因を知ろう!

股関節・骨盤の障害が起こる要因

股関節・骨盤の解剖学的特徴

【股関節の構造と機能】

股関節は、大腿の骨の付け根にあるボール状の「大腿骨骨頭」と、骨盤にあるソケット状の「寛骨臼(かんこつきゅう)」で構成されており、ボールとソケットの構造をした関節です。関節の周りには、骨盤から大腿、さらに下腿(すね)まで伸びる大きな筋肉がたくさんあり、スポーツ活動にとって非常に重要な役割を担っています。

【骨盤の構造と機能】

骨盤を構成する「寛骨(かんこつ)」は「腸骨(ちょうこつ)」「恥骨(ちこつ)」「坐骨(ざこつ)」という3つの骨が成長とともに融合してできています。成長段階によって癒合が異なり、性別によっても形が異なります。(女性の骨盤は浅く広い構造をしています。)これらの骨が組み合わさって、身体の中心部を支え、内臓を保護し、下肢への体重伝達や筋肉の付着部として重要な役割を担っています。

股関節・骨盤は様々な組織が複雑に存在するため、痛みの原因を特定するには、どのような病態で、どのようにして痛みが生じるのか、解剖学的にどこで問題が起きているかを判断する必要があります。

成長期の股関節・骨盤の痛みの分類

骨と軟骨の異常が原因で股関節が痛む場合

股関節の痛みの原因の一つに、骨や軟骨の形そのものに異常があるケースが挙げられます。これは、主に大腿骨、骨盤、そして骨盤側のソケット部分である寛骨臼といった、骨と軟骨で構成される部分に問題がある状態です。骨の形に異常があると、股関節を動かした際に、骨同士がぶつかり合って(インピンジメント)痛みが引き起こされます。例えば、股関節を深く曲げたり、内側にひねったりしたときに、骨の出っ張りや変形した部分が正常な動きを妨げ、周囲の軟骨や組織に衝突してしまうのです。

臼蓋形成不全(きゅうがいけいせいふぜん)

臼蓋形成不全とは股関節のソケットにあたる寛骨臼のくぼみが浅く、大腿骨頭を十分に覆いきれていない状態です。股関節は、球状の大腿骨頭が寛骨臼に収まることで安定していますが、臼蓋形成不全があると、大腿骨頭が不安定になり、関節の一部に体重が集中して負担がかかりやすくなります。

臼蓋形成不全の原因主な原因は、生まれつきの骨の発育不全です。日本では比較的女性に多く見られ、先天性股関節脱臼と関連があることもあります。

  • 股関節の不安定性
  • 軟骨や関節唇の損傷
  • 股関節の痛み

臼蓋形成不全を放置すると、関節軟骨の摩耗が進み、若い時期から変形性股関節症に進行するリスクが高まります。

股関節の安定を支える組織が原因で股関節が痛む場合

股関節には、それ自体は筋肉のように自ら動かず、関節をしっかりと安定させるためにとても大切な役割を果たす関節唇(かんせつしん)、関節包(かんせつほう)、靭帯(じんたい)、大腿骨頭靭帯(だいたいこっとうじんたい)という部分があります。これらの組織が損傷すると、股関節の痛みの原因になります。特に関節唇は、骨盤側のソケット(寛骨臼)の縁に沿って付着し、大腿骨頭を吸い付けるように包み込むことで、股関節をより安定させるクッションのような役割を担っています。股関節の骨の形が悪いと、関節唇に余計な負担がかかってしまい、損傷につながってしまいます。

股関節を動かす筋肉の層が原因で股関節が痛む場合

股関節の動きは、主に筋肉と、その筋肉が骨につながる腱(けん)の働きによってコントロールされています。筋肉が縮むことで関節が動くため、運動量の増加で筋肉の収縮をさせすぎたり、股関節の不安定性を補おうと周りの筋肉にいつも以上に負担をかけてしまい、炎症を起こしたり、損傷してしまったりすることがあります。
作によって形や動きが変化します。

具体的な症状の例

腸腰筋腱スナッピング

股関節を動かしたときに、「パキッ」とか「カクッ」といった音が鳴る現象です。

弾発股(だんぱつこ)

股関節を動かすと、中に何かが「カクン」とずれるような感覚がある状態です。

肉離れ

筋肉が急に引き伸ばされたり、強く収縮したりすることで、筋肉の繊維が部分的に、あるいは完全に損傷することです。

腱付着部の炎症や損傷

筋肉が骨に付着している部分(腱の付け根)に、使いすぎなどによる炎症や傷ができてしまうことです。

【骨や筋肉だけでなく、神経の異常が原因で股関節が痛む場合】

股関節の痛みは、骨や筋肉だけでなく、神経が何らかの原因で圧迫されたり、刺激されたりすることで痛みが生じます。神経が圧迫される原因は様々ですが、主に体の構造的な問題や、動き方の変化が関わっていると考えられています。例えば、股関節の骨の形が悪かったり、周りの筋肉が硬くなったりすることで、神経が通るスペースが狭くなり、神経が締め付けられてしまうことがあります。

成長期の身体と骨盤・股関節の関係

成長期のお子さんの体は、大人とは異なる特徴を持っています。骨が急速に成長する一方で、筋肉や腱の成長が追いつかず、アンバランスが生じやすいのです。また、骨の端にある「骨端線(成長軟骨)」は通常の骨よりも弱いため、繰り返し負荷がかかることで、ケガや障害が起こりやすくなります。

スポーツ動作でみる痛みの要因!

要因となる主な動作

成長期に股関節や骨盤を痛める主な動作

股関節の周りには、たくさんの筋肉や腱、靭帯、軟骨といった組織が集まっており、走る、跳ぶ、蹴るといったスポーツの複雑な動きを可能にしています。

骨盤や股関節に発生するスポーツ障害や外傷は、特定のスポーツ動作と深く関連しています。筋力や柔軟性のアンバランスフォームの乱れ急激な練習量の増加などが、ケガのリスクをさらに高めます。成長期は、骨と筋肉のバランスが崩れやすい時期であることを理解し、適切なフォームの習得と体のケアが重要となります。

スポーツ動作でみる主な障害・外傷

ジュニアスポーツ選手の骨盤・股関節のスポーツ障害や外傷は、競技特性によって発生しやすいものが異なります。代表的なスポーツとそのリスクを以下にまとめました。

競技痛める主な動作発生する障害
サッカーキック動作
ダッシュ
急な方向転換
長期間のランニング
鼠径部痛症候群
恥骨下枝疲労骨折
骨盤裂離骨折
肉離れ
野球投球動作
スイング動作
ランニング
投球動作のねじれ
捕球姿勢のねじれ
スライディング
急なダッシュ
急激な筋肉の収縮
鼠径部痛症候群
変形性股関節症
骨盤剥離骨折
ラグビー
アメリカンフットボール
スクラム
タックル
急な加速(ダッシュ)
転倒
鼠径部痛症候群
骨盤裂離骨折
股関節脱臼・骨折
バスケットボール急なストップ
急なダッシュ
方向転換
ジャンプ、ジャンプ後の着地
コートを走り回る動作
ジャンプやダッシュの繰り返し
鼠径部痛症候群
恥骨下枝疲労骨折
腸腰筋腱炎
骨盤裂離骨折
バレエ新体操開脚ストレッチ
ジャンプからの着地
ターンピルエット(片足での回転)
アティチュードやアラベスクなどのポーズ
キック
ジャンプ後の不適切な着地
柔軟性以上の無理なトレーニング
関節唇損傷
腸腰筋腱炎
陸上競技
(短距離・長距離)
長距離走
ランニング動作
地面からの衝撃
短距離
走急な加速
体幹を強く使う動作
筋肉を強く収縮する動作
ハードリング
恥骨下枝疲労骨折
腸骨稜骨端炎
骨盤剥離骨折
体操競技股関節を大きく曲げる、ねじる
大きく可動域を使う複雑な動作の繰り返し
着地
鉄棒から飛び降りる動作
股関節のインピンジメント
関節唇損傷
骨盤裂離骨折
テニス急な方向転換
踏み込み
サーブやスマッシュといった捻りを伴う動作
激しいスピンサーブ
ボレー
急激なダッシュストップ
鼠径部痛症候群
股関節のインピンジメント
骨盤裂離骨折
スキー・スノーボード不安定な姿勢の維持
深く曲げた姿勢の長時間維持
スピードを伴う転倒
外部からの直接的な衝撃
鼠径部痛症候群
変形性股関節症
股関節脱臼・骨折
ホッケー
(アイス・フィールド)
低い姿勢でのダッシュ
急な方向転換(切り返し)
ジャンプ後の着地
スティックを使った動作
シュート動作
タックルやコンタクトプレー
鼠径部痛症候群
股関節のインピンジメント
骨盤裂離骨折
股関節打撲・骨折
ハンドボールシュート
ジャンプ・着地
急なダッシュやストップ
鼠径部痛症候群
骨盤裂離骨折
肉離れ

こどもたちの未来のために

成長期に起こりやすい股関節・骨盤のスポーツ障害・外傷について、その原因となるスポーツ動作を中心に解説してきました。急なダッシュやストップ、繰り返しのキック、柔軟性を極端に使う動作など、特定の動きが、未発達な骨や筋肉に過度な負担をかけ、様々なケガにつながることをご理解いただけたかと思います。股関節や骨盤といった身体の要となる部分には、特有の障害や外傷が起こる可能性があります。早期に適切な診断と治療を行うことはもちろん、何よりもケガを未然に防ぐための予防策が重要となります。スポーツを通じて得られる喜びや達成感を味わいながら、健やかに成長していくために、私たち大人は、彼らの成長をしっかりと見守り、適切なサポートを提供していきましょう。

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